「タンノイのエジンバラ」を読んだとき、長嶋有という人は固有名詞を使うのが絶妙にうまいなと感じたのだけれども、それ以降、長嶋有の小説やエッセイを読み続けてきたが、家電製品にこだわりを持っていたということには気づかなかった。
なので僕は長嶋有のファンとしては失格なのだろうけれども、ファンだと公言するほどファンだとは思っていないし、新刊が出る度に他の小説を先置いてまでも読もうという気概もないので、そもそも九月・十月・十一月と連続して本が出ていたことも知らなかったし、それほどショックでもないはずなのだが、今まで長嶋有の作品の何処をみていたのだろうかという軽い衝撃は受けた。
さてこの本は書評なのかエッセイなのかはっきりしない本なのだが、それもそのはずで、自作に関して語っている部分もあって、さすがにそれは書評ではなく解題もしくは自作解説の部類になるだろうし、普通にいえばエッセイでもかまわない。自作以外に関していえば書評といってしまってかまわないだろうけれども、作者のサービス精神の表れなのか、文庫化にあたって、巻末に書き下ろしの短編が収録されているのだ。
安易に短編付きエッセイとしてしまうには収まりきれない書評としての面白さがある。
小説の中に登場する家電製品に関して語りながら、なおかつそれが対象となる作品の書評として成立している様は素晴らしい。小川洋子の『博士の愛した数式』はちょっとばかり作品のパワーに押し切られて、長嶋有の文章を読むよりも『博士の愛した数式』を読んだ方がましなんじゃないかと思わせる部分もあったけれども、後半、なんとか押し切って凌いだあたりが読んでいてちょっとハラハラしたりして面白かった。
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