不思議なもので、あまりにも期待感が高すぎる本を手に入れてしまうと、手に入れた時点で満足してしまい、読む気力が無くなってしまうことがある。
しかし、必ずそうなるかといえばそうでもないので、多分、期待した内容と実際の内容が異なっていた場合にそうなってしまうのだろう。
ロバート・L・フォワードの『竜の卵』も、期待していたにもかかわらず積読になってしまった数ある本の中の一冊だ。
基本となる物語は地球外生命体とのファーストコンタクトなので新味はないけれども、対象となる地球外生命体が、表面重力が670億G、つまり地球の重力の670億倍もの重力を持つ中性子星上に棲息するチーラと名付けられた生命体でなおかつこの生命体の平均寿命は約30分、時間間隔は人間の100万倍ともなるスケール差となるとその設定だけで十分に異質な話だ。
フォワードは物理学者だけあって、中性子星上に生命が棲息するための科学的な考証はしっかりとされているようだけれども、いかんせん素人にはそれが正しいのかどうなのかさっぱり判断できない。まあそういうものだということで納得して読んでいくしかないのだが、このチーラ、外観は特異であっても思考形態は人間くさい。もっとも思考形態まで異質だったとしたら読んでいてさっぱり理解できない代物になりかねないので、人間っぽい思考をしている方が分かりやすくてよいし、この物語を、異質な環境において人間がどのように進化しうるかという思考実験の話として捉えることもできる。
チーラ達は人間時間にしてわずかコンタクト開始からわずか24時間あまりのうちに急速に科学知識を発展させ、人類の知識さえ超えてしまう。知識においては立場が逆転してしまうのだが、人間に対して恩を忘れないところが心憎い。人間くさい思考をしているので読んでいてよりいっそう愛らしく感じてしまう。
100万倍の時間差がある状況でどのようにコミュニケーションを取るのかというのが一番興味を持った点だったが、読んでみてその処理の仕方に納得した。
コメント