『結晶世界』におけるジャングルの描写も生々しかったが、今回は温暖化によって水没した世界をバラードは生々しく描写している。その様子はまるでバラード自身がそのような世界に行って見て感じたものを描写しているかのようで、とにかくじめじめと湿気った熱気が漂ってくる。
読んでいて自分のまわりがそんな世界に感じてしまうほどだ。
昔の本なので活字が小さいが、それでもわずか250ページ弱の分量でありながら、そこで描かれている世界の熱気と湿度の濃さと分量はさすがバラードだといわざるを得ない。
で、そんな世界を描写しながらもバラードは、沈んだこの世界がどうなっていくのかなどという方向には向かわず、登場人物の内面へとひたすら向かい続けて、そしてその内面の世界がどこへと向かうのかといえば、狂気へと向かうのだからたまったものではない。
しかし、これだけ暑苦しければそうなっても仕方がないと思える説得力もある。で、それ故に、生半可な気持ちで読んでいくとバラードの世界に打ちのめされてしまうのだ。
これで残すところは『燃える世界』のみとなった。
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