『標本 マイリンク疑似科学小説集』グスタフ・マイリンク

垂野創一郎さんによる自費出版なので一般には流通していない。
グスタフ・マイリンクは様々な信仰団体や神秘主義者のグループと交流し、最終的にはプロテスタントから大乗仏教徒に改宗したという経歴を持つ。西洋から東洋の宗教への改宗というと、ユダヤ教から天理教に改宗したアヴラム・デイヴィッドスンを思い出すが、どことなく作風も似ているような感じがする。
一言でいえば幻想小説ということになるだろうけれども、ここに収められた四編は、この本のタイトルに「疑似科学小説集」と付けられているだけあって、オカルト的な事象を扱っていながらもそれをオカルトとして捉えず、あくまで当時のレベルの科学として語ろうとしているところがSF好きにはたまらない。
ある時突然、土星の輪が増えるという恐怖の現象を語った短編「土星の輪」における輪が増える謎の真相はじつに馬鹿らしい真相なのだが、よくもまあそんな物をこれと結びつけたものだと逆に感心するうえに、輪を増やしていた存在に対する作者の皮肉が見え隠れしていて面白い。
「菫色の円錐」は言葉が世界を変貌させてしまう話で、短編なのでワンアイデアストーリーで、身も蓋もない内容なのだが、川又千秋の『幻詩狩り』とか伊藤計劃の『虐殺器官』とかの系譜の祖先ともいえる話。短すぎるので単純過ぎるけれども、最後にちょっぴり皮肉を効かせているあたりが素敵だ。
「標本」と「蝋人形展覧室」は共通の人物が登場する一連の話となるのだが、どちらも人体損壊というか読んでいて生理的嫌悪感を感じさせる話だ。しかしそれが疑似科学で説明されているので個人的にはその嫌悪感が多少軽減されている。嫌悪感は嫌なんだけれども、この疑似科学ぶりはなかなか面白く、もう少しグスタフ・マイリンクの小説を読んでみたくなった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました