『99%の誘拐』岡島二人

岡島二人の最後の作品は『クラインの壷』だが、これは実質的には井上夢人の単独作品といってもいいので、『99%の誘拐』が岡島二人の最後の作品といってもいいのだろう。
前にも書いたけれども、僕は岡島二人の作品をほとんど読んでいない。特に、岡島二人といえば「人さらいの岡嶋」または「誘拐の岡嶋」と呼ばれたくらい誘拐を扱った作品が多いのだが、誘拐物は今回が初めてとなる。
現実の世界において誘拐という犯罪は抵抗のできない子供が誘拐の対象となることが多いので卑劣な犯罪なのだが、これがミステリの世界となると卑劣な犯罪として描かれないパターンがあるのが、誘拐というものを真面目に考えるとジレンマを生む対象となる。
被害者側から描けば、たいていの場合、卑劣な犯罪として描かれるのだが、犯人側から描くとこれが一転してスマートな犯罪として描かれてしまう。特に、誘拐物の場合、捕まらずしていかにして身代金を受け取るかという点に焦点が当たることが多い。身代金の受け取りという部分において不可能犯罪という面があり、この不可能をいかにいして可能にするのかという部分に知的面白さが生まれる。
で、『99%の誘拐』はどうだったかといえば、1988年にこれだけのテクノロジーを駆使した物語を書いたという点で脱帽してしまう。
あまりにうまく行きすぎるという面も無きにしもあらずだが、しかし、現在において、今現在のテクノロジーを駆使する誘拐物を書いたとしてもこれを越えることができるのだろうかと考えると、二番煎じにしかなりえなさそうだ。
まだまだ未読の作品があることを思うと、岡島二人の作品を今まで読んでこなかったことが嬉しくて仕方がない。

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