刑法三十九条。この小説で扱っている問題は非常にやっかいな問題だ。
現実に抱える問題だけでも手一杯なのに、さらにこういった問題にまで関わる必要があるのだろうかといえばそんな必要はないだろうと自分でも思う。しかし、心の病に罹ってしまった当事者の家族だからこそ向き合う必要のある問題なのだと思う。もちろん、向き合う余力があるのであればだ。僕はどうなのかといえば、中途半端にしか関わることはできない。でも、この問題から目をそらすわけにもいかない。
心の病というのはもの凄く難しい。脳波を計ればわかるとか、MRIで調べればわかるとかといった客観的な診断は今のところできない。
おかしいと判断するのは簡単にできる。すぐにわかるのだ。将来的には客観的な診断も可能になるのかも知れない。しかし正常になったかどうかを判断するのはとても難しい。
一度、疑いの目で見てしまうと、駄目なのだ。ほんの少しの言動のおかしさでさえも再発したのかもと思ってしまう。世間を見回せば、冗談でおかしなことをいう人もいる。病気でなくても変な言動をする人はいるのにだ。
「心神喪失者の行為は、罰しない」というのは原則的に間違っていないと思う。罪を罰するのではなく、償わせるという意味において考えてみた場合、責任能力の無い人間は償うという行為を行うことができないのだからだ。
問題はむしろ、この原則の乱用にあるのではないだろうか。闇雲にこの原則を適用させ、無罪に持ち込もうとする方が問題なのだと思う。
だからといって、現状の有様が良いのかといえばそうは思っていない。結局、どんなに考えても答えは出そうにない。家族にできることは、当事者が苦しまないように支え続けるしかないのだ。
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