小川洋子の小説を読むのは『博士の愛した数式』以来だ。
その時の僕の感想は、小川洋子が作り出した世界の美しさに涙が出た。というものだった。
この美しさが小川洋子の作風として備わっている物なのか、それともこの小説に限ってなのかはわからない。しかし、それは彼女の他の作品を読んでみればわかっただろうけれども、そういうことはしなかった。
他の作品を読んで、がっかりしてしまうのを恐れたせいだ。
がしかし、『猫を抱いて象と泳ぐ』が出たとき、この小説も美しいに違いないという予感がした。四六判の時は見送ったが、文庫化されたので読んでみた。
うむ、予感どおり、端正で美しい世界だった。
何処とも知れない年代、何処とも知れない国を舞台に、『ブリキの太鼓』の主人公のように成長することを拒んだ少年を主人公にしながらも『ブリキの太鼓』とは異なる世界を描き出す。それは、この主人公が拒んだのは成長ではなく、大きくなることだったせいかもしれない。
そして、チェスという世界、それは8×8マスの小さな世界、その小さな世界を丁寧に、そして端正に小川洋子は描き出す。
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