『踊るジョーカー』北山猛邦

長編と比べるとインパクトが薄れてしまうのは短編だからというよりも、世界一気弱で引きこもりがちな人物を探偵に持ってきたせいだろう。
気弱で引きこもりがちな友人が推理の才能を持ち合わせていることに気がついた語り手の作家によって、名探偵として活躍させられるという設定。そして長編に見られるような特殊な世界設定などはなく、あくまでごく普通の日常の中で起こる事件。二人の会話はユーモラスであり殺人事件を扱っていても殺伐とした雰囲気は微塵もない。
なのに、個々の短編を読むと、やはり北山猛邦の作品だなあと思わざるを得ないのは作中で使われるトリックや動機などに北山猛邦らしさがあふれているからだ。
表題作の「踊るジョーカー」におけるトリックなどは、そのトリックが使われた犯行が行われている場面を想像すると思わず笑いがこみ上げてしまう。
引きこもりということで安楽椅子探偵の変形と見るべきかというとそうでもなく、なんだかんだいって必ず事件の現場に赴くのは気が弱いのでワトソン役の友人に無理矢理連れ出されるせいだろう。気弱という設定が事件に何らかの関係を持っていたらさらに面白くなったかもしれないが、そこまで要求するのは酷なもので、気弱な探偵とワトソン役との微笑ましい会話を楽しみながら、北山猛邦っぽい謎を気楽に楽しむのが一番だ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました