瀬名秀明の日本SFとの決別発言を知っている身にとっては、瀬名秀明の本が早川書房から出るというのは感慨深いものがある。しかも著者の初めての純粋な短編集なのだ。
と書きながらも、瀬名秀明の小説はあまり読んでいない。デビュー作は未読だし、『BRAIN VALLEY』と『八月の博物館』は積読のままで、瀬名秀明の小説が好きかと聞かれたら、あまり好きではないと答える。
僕はあまり好きではない作家の本でも、読む価値があると思えば読むので、瀬名秀明の小説も好きではないけれども読む。
だけど、どこが好きではないのかというのは上手く答えることができない。ただ、昔はもっと好きではなかったのだけれども最近はその度合いが減ってきているような気がする。
というのもこの短編集に収録されている個々の短編を読んだとき、感動したからだ。
「魔法」におけるテクノロジーの進歩と手品の関係。高度に進化した義手によるカードやコインのさばきは人の手の限界を軽く超えてしまう。そんな義手による手品を見て、人は感動するのだろうかという問題を孕みながらも瀬名秀明はこれをラブストーリーに仕立ててそして感動的な魔法をかけるのだ。
「静かな恋の物語」と「希望」で語られる、人と人とのコミュニケーションにおける重力の存在。そして「希望が最後に残る」という言葉。
センス・オブ・ワンダーに満ちあふれていて、そして前よりもちょっとだけ好きになった瀬名秀明の小説がここにある。
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