トーベ・ヤンソンの持つある種の意地悪さと冷徹な視点と皮肉さはわりと好きだ。ムーミンの小説を読んでいると、楽しさの中にところどころそういった部分が見えてくる。
大人向けに書かれた小説になるとそういった部分がある程度はっきりと現れてくるので、最初のうちはとまどったが、慣れてくるとそれが癖になる。
この本は短編集なので、一つ一つの話は短く、はっきりとした起承転結があるわけでもなく、スケッチに近い。しかし、トーベ・ヤンソンのその切り取り方は鋭く、その鋭さがやはり癖になるのだ。
ムーミンというファンタジーを書いたせいもあるのか、SFっぽい話もいくつかある。
「ショッピング」は何物かが街に現れ、その何物かから隠れるように狭い部屋に身を隠し、誰もいない時間帯を狙って誰もいない街へ出ては食料品を取ってきてかろうじて生活する男女の話だ。
何が起こったのか、人々はどうなったのか、そして街にあらわれた何物の正体も明らかにはされない。
初老の男が宿泊するホテルの名前を忘れてしまった為に見知らぬ街で一夜を過ごす「見知らぬ街」では街そのものに言論統制の行われているような不穏な雰囲気が漂っていて、一筋縄ではいかない。
「思い出を借りる女」では自分が昔、住んでいた部屋に住む女性を訪ねてみると、その女性は自分の思い出を、自分のことのように語るという話。奇妙な味というか不気味な話だ。
繊細さとそれ故の不安定さが存在する。その不安定な部分をトーベ・ヤンソンは切り取ってスケッチしているのだ。
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