ずっと気になっていた本なんだけれども、ようやく読むことにした。
辻村深月の本はデビュー作にしろ、その次の作品にしろ分厚いのでちょっと怯んでいたのだ。そのせいで三作目も読むきっかけがつかめずそのままにしていた。で、今回読んでみようという気持ちになったのはムーミンフェアの一冊だったからなのだが、読み終えて、読むきっかけを与えてくれたムーミンフェアに思わず感謝してしまった。
つまり、この本は傑作だ。
解説で瀬名秀明もそう書いているのだが、瀬名秀明がこの本を傑作だと言い切る理由はよくわかる。わかるけれども自分がこの本を傑作だという理由とはちょっと違うだろう。
メフィスト賞受賞でデビューしたのでこの本もミステリだと思っていたのだけれども、読んでも読んでも普通の意味でのミステリっぽさは全然出てこない。まあ、まともなミステリを期待してはいなかったのでこんなものかなと思いつつ、瀬名秀明が言うような傑作でも無いだろうと読み進めていったら、「先取り約束機」の章まで来てこの本が傑作なのに気が付いた。
要所要所で辻村深月はドラエモンの秘密道具を主人公に語らせ、そしてそれを現実の世界に当てはめていく。主人公は元彼に対して彼は「カワイソメダル」の持ち主だと看破する。誰からも可哀想と思われる態度を無意識的に取っている。だから彼は「カワイソメダル」の持ち主だと主人公は言う。「先取り約束機」についても同様だ。実際には存在しないドラエモンの秘密道具なのだが、現実の世界にはそれと同じ要素を持ち得る人がいるということを看破する。
そんな秘密道具を考え出した藤子・F・不二雄が凄いのか、それともそのような解釈をする辻村深月が凄いのだろうか。
中盤過ぎに登場する家政婦さんの存在も素晴らしい。その家政婦さんの誕生日のプレゼントの仕方が心憎いのだ。なんて素敵なプレゼントの仕方をするのだろう。
物語の細部に、優しさと厳しさがあふれている。
だからこの本は傑作なのだろう。
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読書日記300:凍りのくじら by辻村深月
タイトル:凍りのくじら 作者:辻村深月 出版元:講談社 その他: あらすじ———————————————- 藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う一人の…