『ねじまき少女』パオロ・バチガルピ

読み終えて、あれ、こんな話だったの。と、ちょっととまどいを隠せない。
もの凄い陰謀とかもの凄い世界の秘密とかがあるわけではなく、いろんな登場人物達がそれぞれ思惑をもって行動しているさまを読んでいるうちに、かろうじてうまく回っていた歯車が狂いだして崩壊してしまった。という話だ。
石油資源が枯渇し疫病が猛威をふるい世界は大変な事になってしまった時代、俯瞰的な要素は無視しタイのバンコクのみを舞台にして、そこから視点を一歩も動かさず、一転突破で描くことによって生まれる外の世界では何が起こっているのかわからないという閉塞感と密度の濃さが面白い。
視点人物の思惑と行動が徐々に絡み合い、その結果生まれる終盤のカタストロフという展開はどことなく、タイという異国を舞台にしているせいもあってかSFというよりも冒険小説を読んでいる感覚に近い。SF小説を読んでいるのに何だか変だという感覚は多分、このあたりから来ていたのだろう。
近未来というとコンピュータやネットワーク、もしくはナノテクといった部分がもてはやされる中、そういった物が不自由な物になってしまった世界というのは刺激的で新鮮さがある。かろうじてバランスをとりながら生き延びている世界、そのバランスが崩れてしまえば人類そのものが滅んでしまうかも知れないという危うい世界でありながらも、生きることの力強さにみなぎった物語だった。

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