『八月の濡れたボール』軒上泊

その昔、『スクール☆ウォーズ』というテレビ番組があった。人気があったのでその後続編『スクールウォーズ2』が作られたのだが、軒上泊の『八月の濡れたボール』はその原作となった小説だった。ただし、テレビの方はラグビーなのだが、原作の方は野球である。
落ちこぼれの不良学生がスポーツを通して成長していく物語というものは古くからある。しかし、軒上泊の『八月の濡れたボール』の場合は落ちこぼれなどという生やさしいレベルではない。少年院が舞台であり主人公達は窃盗、脅迫、殺人などの罪に問われて更生中の身だ。全国の少年院から野球の素質をもつ選りすぐりの少年が「更生学園」に集められ、そして甲子園を目指す。
物語が始まって早々、秘密裏に「更生学園」に集めさせられ、そして野球の練習が始まる。選手一人一人の過去に関しては合間に少しずつ描かれるのだが、紙面の制限のせいか一部の主要メンバーの過去しか語られないところが残念だ。その分展開がスピーディーで飽きさせない利点もある。全員が何らかの犯罪を犯した人物だ。いちいちその様子を描かれたら気が滅入ってしまう。
主人公達に共感が持てるかというと素直に共感はできないのだが、それでも、主人公達が犯罪に走ってしまった憤りのようなものは理解できるし、ある種の希望のようなものを持ち続けている主人公達を嫌いにはなれない。そしてそういう視線を向けることができるのが軒上泊の持ち味だろう。
選りすぐりの精鋭を集めただけあって、彼らは地区予選を勝ち抜き、甲子園へと出場する。そして一回戦の相手は、前回優勝校だ。残りのページ数はあとわずか。どういう結末を迎えるのか誰だって予想がつく。だが、試合に勝つか負けるかというのはおまけでしかない。そこに至るまでに主人公達はそれぞれがそれぞれの形でそれまでの自分に対して一つの区切りをつけるのだ。
そして軒上泊はそんな彼らに勝利という祝福を与える。

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