10ページほど読んだところで去年から止まっていたジャック・ヴァンスの『殺戮機械』をようやく読み終えた。
妻にかたづけてと文句を言われながらも、居間のテーブルの上に置いて、いつでも続きを読むことが出来るようにしておいたのが、いつでも読むことができるという安心感に変わってしまい徒となってしまった。
昔の早川文庫なので活字が小さいとはいえたかだか270ページほどだ。この程度の分量を一気に読み終えないでどうするんだと自分を奮い立たせて一気に読み終えた。
で、見事に、どんな内容なのか忘れきっていた。
後半になって舞台がとある惑星に移り、いきなりファンタジーの世界になるのも全然覚えていなかった。それまでのSF世界からの切り替えはなかなかインパクトがあるのだが、忘れてしまっている。唯一、<交換所>の存在だけは覚えていたけれども、覚えていたのはそれくらいだ。
誘拐された人物と身代金の受け渡しを仲介する独立した組織である<交換所>という設定がいかにもヴァンスらしいひねくれたユーモアだ。
魔王子の一人、ココル・ヘックスに惚れられてしまった女性がココル・ヘックスから逃れるために自らを誘拐し、<交換所>で莫大な身代金を設定して誘拐された人物になってしまうという設定が面白い。<交換所>は独立した組織なので魔王子といえども、身代金を支払わなければ彼女を手に入れることが出来ないのだ。
で、莫大な身代金を支払うためにココル・ヘックスは、せっせと金持ちを誘拐し身代金を稼ぐ。なんとも涙ぐましいではないか。
そんな涙ぐましい努力を重ねているココル・ヘックスに対して、我らが主人公カース・ガーセンはとんでもない卑怯な手段で大金を作り出し、彼女を手に入れてしまう。あまりにも卑劣な手段なのでガーセンよりもココル・ヘックスのほうを応援したくなってしまう。
しかし、なによりも素晴らしいのはガースンが用いた卑怯な手段に対して、物語の始めのほうでしっかりと伏線が張ってあったことだ。わずか270ページしかないページ数を考えると神業としか思えない。
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