読み終えて、ひとつひとつを振り返れば、確かに良くできていると思うのだが、読んでいる最中、ワクワクできたかというとそうでもない。シリンダー世界というハードSF的な世界が舞台となるが、殺人事件の調査がメインなのでリングワールドのような冒険SFにはならない。そのあたりは事前に知っていたので期待はしなかったけれども、主要な登場人物全員が曰く付きで主人公の過去にもいろいろと問題があるという設定はちょっと詰め込みすぎ。読んでいて、殺人事件の謎なんてどうでもいいよという気分にさせられる。SFとミステリを足して二で割らなかったといった感じだ。何かと何かを足したら割った方がいい場合もあるという良い例かも。
そのせいで事件の真相は良くできているわりに、そこへと到達するまでが異様に長く感じられ、衝撃度が減少してしまう。歳をとってせっかちになってしまったせいかもしれないけど、真犯人が誰かとかは定番なパターンだったけど、異質な生物の異質な思考が面白かっただけにもったいない。
抄訳が平気で行われていた昔だったら、福島正実あたりに抄訳させたらさぞかし傑作になっただろうとふと思ったりもした。
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