去年、軒上泊の『君が殺された街』が突然文庫化されたとき、予想外の驚きとうれしさがあったのだが、軒上泊の新刊が出なくなって久しいことを思うと、どうせ新作は望めないのだから、これだけ出されても蛇の生殺しみたいなものだよな、と思った。
が、しかし、軒上泊の新作が出たのである。しかもミステリだ。
新刊としては十二年ぶり、ミステリとしては十五年ぶりだ。
帯に書かれた「奇才が放つ清冽な感動ミステリー小説」の奇才というのはちょっとどうかと思うが、そんなことはどうでもいい。
『君が殺された街』と比べると驚くほどみずみずしいのにびっくりした。軒上泊の孫が軒上泊の名を騙って書いたんじゃないかというくらいにみずみずしく、十二年もブランクがあることをまったく感じさせない。
主人公が考えるところの、自分の生きてきた道筋は線ではなく、点線だという感性にハッとさせられる。よくもまあこういう感じ方、捉え方ができるものだと感心してしまう。そしてこの物語は点線が線となる過程の物語だ。
ミステリとしてみた場合、多少、ご都合主義的な部分も無きにしもあらずなのだが、ご都合主義でも構わないじゃないかという気分にさせられる。少なくとも軒上泊の新作にはそれだけの力強さがあるのだ。
軒上泊の次の新作はまだか?
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