一時期、江戸川乱歩賞受賞作を重点的に読んだことがあったのだが、ではどのくらい読んだのか振り返ってみると、その期間で12作程度しか読んでいなかった。当時すでに第35回ぐらい受賞は行われていたので、三分の一程度しか読んでいない計算となる。
その後、ちらほらと未読分のうち、興味の出た作品は読むようになったけれども、それでも17作しか読んでいない。
まあ、受賞作といえども、必ずしも自分の好みの内容であるわけではないのでまあこの程度の数になるのだろう。
藤本泉の『時をきざむ潮』は当時、内容的に興味を引かなかった作品で、作者の他の作品に関してもやはり興味が持てないものばかりだったので今まで未読だった。
しかし、歳を取ると興味の対象も変化してくるもので、藤本泉の作品も何となく気になるようになってきている。とくに<えぞ共和国>シリーズは読んでみたいという気持ちがどんどんと高まってきているのだが、そういう時に限ってというか藤本泉の作品は『時をきざむ潮』以外全て絶版なのだ。<えぞ共和国>シリーズの一冊ではあるが、シリーズとしては二作目にあたるので、一作目から読むべきではないかという気持ちも長いこと働いていたが、作品間のつながりは特になさそうなので二作目の『時をきざむ潮』を読むことにした。
読んでみると、まあなんというか、かなり斬新な内容だった。殺人事件は起こるのだが、最後まで遺体は発見されずじまいだったり、謎は解明されても探偵役は敗北してしまうし、それ以上に動機の問題の部分が斬新すぎる。なにぶん、風俗的な部分が古びてしまっているせいで所々読むのが厳しい部分があるが、作者が描こうとした部分に関してはいま読んでもじゅうぶんに衝撃的である。
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