読み終えて、ため息が出た。
南米といえばブラジルが真っ先に思いつくくせに、ブラジルという国のこと、特に歴史に関しては何も知らなかった。ブラジルが帝国だった時があったことでさえもだ。
ラテンアメリカの作家というとマジックリアリズムという印象が強いが、バルガス・リョサの場合は違った。
二段組700ページ弱を費やして、大量に投入される個性的な主役級の人物、そしてどれもが印象に残る個々のエピソード、それ故になのか、膨大な人物が登場するにもかかわらず混乱せずにするすると読み進めることができる。
例えば、こうだ。
骨相学者のガリレオ・ガルはブラジルの代議士より、カヌードスへ武器の運搬を依頼される。
代議士は流浪の説教師を中心として集まったカヌードスの集団が自分の政敵に敵対する勢力になりうると見なし、敵の敵は味方であるという考えの元、武器の援助を行おうとしたのである。
ガリレオ・ガルはカヌードスへ行くためにガイドを雇うが、ガイドの家へ行くとガイドは別の仕事を勝手に引き受けて留守の状態だった。ガイドの妻の話によると戻ってくるのは二三日後だという。そして成り行き上ガリレオ・ガルはガイドの妻と関係を持ってしまうのだが、その後、ガリレオ・ガルは何者かの襲撃を受け、輸送する武器を奪われてしまう。
かろうじて生き延びたガリレオ・ガルは代議士に連絡を取るのだが、今度は代議士の使いの者に殺されそうになる。
代議士は自分の政敵を倒す為ではなくカヌードスを利用して議会を自分の思うとおりに操ろうとしていたのだ。そしてガリレオ・ガルは自分が捨て駒として利用されたことを知り、代議士に復讐を誓い、ガイドの妻とともにカヌードスを目指す。
一方、仕事を終えて家へと戻ってきたガイドは妻の裏切りを知り、ガリレオ・ガルと妻の後を追う。
さて、これだけでも十分に面白しろそうな展開なのだが、これ以上の数のカヌードス側の人々の物語がさらに加わる。そしてそれだけではない、討伐に向かう軍隊の物語が追加され、さらにはそれだけでは描かれない部分を補足するような形で近眼の記者の物語が加わる。近眼の記者だけは唯一名前が与えられていない。
面白そうだと感じただろうか?
感じた人は躊躇せずに読むといい。読み終えてきっと満足するだろう。
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