私は今、三つの世界を生きている。
一つ目は、現実の世界。
二つ目は、妻のいる世界。
そして三つ目は、本の世界。
三つの世界はわずかに重なり合うだけの、別世界だ。
残念ながら、妻の病気は偏見と差別が根強く残っている。多分これは、どうしようもないことだ。
しかし、どうしようもないことだといって、妻を偏見と差別の目にさらされ続けることなどしたくない。
だから私の住む世界は分けるしかない。
重なり合う位相を微妙にずらし、直接接点の結び付かないようにする。
生きるために、現実の世界で仕事をし、そして妻のいる世界へ帰っていく。
そして、現実逃避として本の世界へ逃げ込む。
時として、逃げ込まなければいけないほど追い込まれる時がある。
苦しくて、鬱になるのではないかと思うこともある。
妻は時折、私のことを心配してくれる。
しかし、何の根拠もないけれど、本を読みたいという気力がある間は、自分はまだ大丈夫なんじゃないかと、そんな気がする。
好奇心がある間は、まだ大丈夫だ。
今年も沢山の本を読んだ。積読のままの本も多いけれども。
トマス・ピンチョンの『逆光』なんかは上巻を買ったまま、読むところまでいっていない。下巻はまだ買ってもいない。何しろあの値段だ。妻の手前、上下巻を一度に購入するのは気が引けてしまって上巻だけしか買わなかったのだ。
そうこうしているうちに、マリオ・バルガス=リョサの『世界終末戦争』も復刊してしまった。
少しずつ、本のことにも触れることができたらいいなと思う。
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