経過報告19

9/23

薬が少しでも効いたのか、いやそんなことはないのだろう。
しかし、今朝の妻は少し機嫌がよかった。
明日、どうするのかまだ悩んでいる。
しかし、今日のところはこれ以上悩んでいてもなにも得る物はないだろう。今日は会社へいって仕事をしよう。
出かける間際に妻が、「今日は泡を吹いて倒れているかもしれない」とつぶやく。
今日は会社を休んで側にいてやろうかと言うと、
「そんな気弱だから心配なのよ。気合いを入れてやるとか言えないの?」
私がそんな性格ではないことぐらいわかっているだろう、と思うのだが、妻が望んでいる理想の旦那像を目指すのは難しい。
私は妻にキスをして、「気合いを注ぎ込んでやった」と言う。
物語の世界ならばこれで少しは効果があるかも知れないが、現実の世界の私のキスは効果ないだろうなあ。
明日、どうするか悩み続けている。
脳波の検査ということで病院までは連れて行けそうだが、診察を受けてくれるか、そしてありのままの状況を話してくれるのかどうかわからない。そのあたりはもう、臨機応変に対処するしかないのだろう。
そして会社へ。
今日、私がやらなければいけない作業があることをすっかり忘れていた。
私が行わなければいけない作業を心ならずも放棄したことで仕事仲間を心配させてしまったことは申し訳ないと思ったが、かろうじて出社して、なんとか作業をし終わり、ちょっと一安心する。
仕事の合間に妻からメールが入る。
新聞のクイズに熱中しているらしくちょっと安心する。
味噌汁にいれた薬のせいで悪影響がでていなければいいと思っていたので、よかったよかった。しかし、医師の処方なしに行ったこの行為は決してほめられたものではないし、今後は絶対に行わないようにしよう。
夕方の妻からのメールも穏やかな内容だったので安心するも、昨日のことがあるので帰宅するのが不安でもある。
妻は昨日よりも穏やかだった。
しかし、言動こそは穏やかだけれども、体の痺れや頭の中を盗み見されていることへの苦痛を訴える。
まだ悩んでいる。
このままの状態であれば入院などさせず、一回の注射で二週間から三週間効果が持続するデポ剤を打ってもらうことで治っていくのではないかと思ってしまう。
しかし、妻のことを思うとここは入院させてしまうのが一番なのだと自分に言い聞かせる。
明日の夜、妻はこの部屋にいないということを考えるとくじけそうになる。
今日まで連休なので病院は休みだ。
明日の朝、どうするか病院に電話をしなければいけないのだが、妻に聞かれず電話する手段が思いつかない。
用事ができたといって外出しようものなら、妻は自分ひとりで病院へ行くと言い出すに違いない。
ただでさえ、明日私が病院へ付き添うことを、子ども扱いしていると毛嫌いしている妻なのだ。
おそらく今夜は眠れないだろうことはわかっていたが、処方してもらった精神安定剤を飲んで明日の思考に影響が出てはいけないので飲まないことにする。
妻を促して早めに布団に入る。薬は飲もうとしない。まあいいか。自発的に薬を飲もうとしないので昨日の約束も忘れてしまっているのだろう。いや、忘れてしまうほど苦しんでいるのかもしれない。そう思うと、何が何でも入院させ、治療を受けさせようと思うのだった。
しかし、入院させて治療を受けたとしても必ずしも治る保障はないことも理解している。
三ヶ月。三ヶ月だろう。入院させても三ヶ月で効果が出ないのであれば、完治は望めないだろう。
その時点でまだ妻が薬への不信感を抱き続けていたとしたら、もう、妻の好きなようにやらせてあげようか、そんなふうに思ってしまう。
できることならば私も妻のいる世界へ行きたい。
妻の苦しみをわかってやりたい。わかることできるのならば、狂気の世界へ飛び込んでしまってもかまわないとさえ思ってしまう。
せめて他人に対する悪意だけでも無くなってくれればと思う。
人ごみを嫌い、他人とのコミュニケーションが苦手で、なにかあるとすぐにくよくよ悩む。
確かにいらだつこともあるけれども、それだけだったならば、今までと同じだ。
たまに喧嘩し、そのときには、この家から出て行けなど、我ながらとひどいことを言ったりするし、それでいて私は自分からは謝ろうとせず、たいていの場合、妻のほうから擦り寄ってきてくれてようやく仲直りする。
すまないという気持ちで一杯だが、それでも今までどおりであれば、それ以上はなにも望まない。
妻はここのところ病気の影響か、記憶力が衰えているような気がする。
「何があっても味方だよ」
妻が忘れても忘れても、何度でも妻の心に刷り込んでやる。
しばらくして妻の寝息。
私もいつしか眠りの世界へ。
「よし」って言った。
妻はそういって起きだしトイレへ。
下の人がそう言ったらしい。
何が何でも苦しみから助け出してやる。
そう自分の心に言い聞かせた。
時計を見ると三時半。そのとき突然、妻に聞かれずに朝の病院への電話をする、妙案が浮かんだ。
下の人に聞かれないように外で電話してくると言って出れば、妻に聞かれずに電話ができるだろう。
妻の妄想を増長させる結果となるかもしれないが、たぶんこの方法でうまくいくに違いない。
安心するも眠れないことに違いはなく、病院でどういう風に説明するかシミュレーションをして朝まで過ごす。

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