ダークライン

初めて読んだジョー・Ｒ・ランズデールの作品が、「罪深き誘惑のマンボ」で、冒頭の文章を読んで一発で虜になってしまいました。

クリスマス・イブの夜にレナードを訪ねると、やつはケンタッキー・ヘッドハンターズのレコードをかけ、『ザ・バラード・オブ・デイビー・クロケット』が響きわたる中、クリスマス祝いの一環として、またしても隣家に放火している真っ最中だった。

ハップ＆レナードシリーズの第一作がいまだに翻訳されないのが不思議なんだけど、このシリーズもマイケル・スレイドのスペシャルXシリーズと同様に、シリーズキャラクターに容赦ないシリーズなんだよねえ。主人公のハップとレナードはさすがに死なないけれども毎回無傷では済まされない。しかしそれ以外の登場人物たちは無事生き延びたとしても次の話では死んだり大けがを負ったりする。
そういった無情ともいえる部分が作者の人生観みたいな物なのか、単発物である「ダークライン」でも根底としては同じ物が流れている。
まだ黒人差別が残っている1950年代後半のアメリカ南部、過去に起こった事件の謎を解くといういわゆるスリーピングマーダー物であるけれども、浮かび上がってくる事件にまつわる個々の真相は情け容赦ない。そして全ての謎が解き明かされるわけでもなく何ともやりきれない結末にたどり着く。
世の中のことなどなにも知らなかった主人公が事件を通して世の中のことや人の心の闇などを知って成長していく物語なんだけれども、いきなり世の中のこんな重苦しい闇の部分と直面させられて大丈夫なのかと心配したくもなるんですが、そこはランズデールの暖かい視点がくまなく張り巡らされており、世の中の裏側にはどす黒さがある反面、表側にはやさしさと明るさがあることでバランスを保っている。
ようするにこれはファンタジーなのだ。
そしてランズデールの物語は幕を閉じるのだけれども、私の人生の幕はまだ閉じない。
続いて私はオクティヴィア・バトラーの「キンドレッド」を読むこととなる。