ブラックジュース

ブラックジュース (奇想コレクション)

  •  マーゴ・ラナガン佐田 千織
  • 販売元/出版社 河出書房新社
  • 発売日 2008-05

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奇想というほど奇想でもないのだが、まあとりあえず変な設定を作っておいてその設定下における主人公たちのある日の一日を有無をいわさず描ききっただけの話が多い。
冒頭の「沈んでいく姉さんを送る歌」における罪人をタールの沼に沈ませる刑罰は確かに嫌な刑罰なのだが、そのまわりで罪人の親類たちが歌を歌い続けるという光景は嫌な刑罰という以前に実にシュールな光景へと変化してしまう。
そんなわけだから、嫌な刑罰といって真っ先に思いつく式貴士の「カンタン刑」や、変な刑罰で真っ先に思いつくジャック・ヴァンスの「スフェールの求道者ガイアル」で登場する刑罰などと比べると、インパクトは欠けてしまう。
その他、何故か道化師ばかりの街で、道化師だけを殺す殺し屋の話である「赤鼻の日」なども、ジェイムズ・パウエルの「道化の町」と比べてしまうと、謎もへったくれもないのでつまらないし、異形の天使が登場する「俗世の働き手」における天使の異形さ加減もテッド・チャンの「地獄とは神の不在なり」と比べれば色あせてしまう。
しかし、「わが旦那様」でのラストにみせる奥方の心模様といい「ヨウリンイン」での失恋と立ち直りといい、マーゴ・ラナガンの話は理屈ではなく、変な設定下における主人公たちのごく普通の心模様を楽しむのが正しい読み方なのかも知れない。

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