- 著 佐々木 譲
- 販売元/出版社 早川書房
- 発売日 2008-05-08
佐々木譲は『五稜郭残党伝』しか読んだことはなかった。
『五稜郭残党伝』しか読んだことがなかったといっても、『五稜郭残党伝』がつまらなかったわけではない。他の作品も読んでみようかと思うくらいに面白かったのだが、残念ながら『エトロフ発緊急電』とか『ベルリン飛行指令』とかに手を出すつもりだったのに何故か手を出さないまま今まで来てしまった。
多分単純に、『五稜郭残党伝』と同じ系統の作品があれば読み続けたのだろうけれども、そういう作品がたまたま見つからなかっただけなのだ。
というわけで、佐々木譲がウールリッチのファンだということも知らなかったし、『夜にその名を呼べば』がウールリッチのオマージュであることも解説を読むまで知らなかったわけで、先に解説を読まなければ多分手を出さなかっただろう。
で、読んでみるとそれほどウールリッチの雰囲気は感じられない。ココム輸出規制違反だとか、それによって現内閣が吹っ飛ぶといった、やけに現実的な話から始まるというのがその原因なんだけれども、まあウールリッチの模倣ではなくオマージュであるわけだから、文句を言うところではないのだろう。
もっとも、そういう表層レベルをはぎ取ってみると、物語においての経過時間が第一部では一日、第二部は数日だが、第三部では一日と短時間の間の出来事だったり、第一部の展開などはいかにもウールリッチという展開で、ああ確かにこれはウールリッチのオマージュだと思うのである。
しかし、事の真相まで読み終えて、オマージュになっているとはいえ、というかウールリッチのオマージュとなればそういう結末にしかならないのだが、なんともやるせない結末の付け方をさせられると、もっとウールリッチっぽさを出してくれてもよかったのにと我が儘をいいたくなってしまう。
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