- 著 小泉 喜美子
- 販売元/出版社 文藝春秋
- 発売日 1986-05
小泉喜美子の残した長編はわずか三作。
その三作は著者の考える西洋三大ロマンの原型をモチーフにした作品である。
『血の季節』はドラキュラをモチーフとしているだけあって、ミステリというよりもホラーに近い。
殺人事件が起こるのだが、話が始まったときには既に犯人は逮捕されているので犯人は誰かなどという謎はここにはない。動機は確かに明らかにされてはいないけれども、犯行動機に焦点は当たっていないし、読んでいれば自ずと見えてくる。
アリバイ工作などは行われてはおらず、不可能犯罪でもない。
しかし、だからといってこの作品がホラーなのかというと、やはりミステリだと個人的には呼びたい。
現在とそして犯人の過去とが交互に語られ、そして徐々に得体の知れない物が見えてくるのだが、そこにあるのは犯人はいったい何物なのかという謎なのである。
むろん、何物であるのかということは簡単に想像がつくのだが、合理的かつ現実的な解釈とそして読者にゆだねられたもう一つの解釈と、二つの答えが用意されているのだ。
コメント