十津川警部物を書き始めてから西村京太郎の作品は読まなくなってしまったのだが、それ以前はわりと読んでいた。
アリバイ崩しというものがあまり好きではなく、トラベルミステリ=アリバイ崩しという印象があったせいでだ。トラベルミステリが即、アリバイ崩しになるわけではないのはわかっているけれども、ミステリにトラベルという要素が必要だとも思っていないのでしかたない。
なまじ、西村京太郎は名探偵シリーズとか、『殺しの双曲線』とかミステリマニアが喜ぶような話を書いていただけに、トラベルミステリを書くようになってから興味がなくなってしまったのだ。
『天使の傷痕』は江戸川乱歩賞受賞作品だけれども、社会問題を扱っているということで読まずに来ていた。講談社のフェアの一冊に含まれていたのと、薬丸岳の『虚夢』が文庫化されたのとで、何となくいま読むタイミングが来たのではないかという気がしたので読むことにした。
今の講談社文庫と比べて活字が小さいことや「顔を赧めた」というような言葉使いとか時代の流れを感じさせてくれた。そんなに古い作品ではない印象があったけれども、私が生まれる前の作品なのだから無理もない。
都会的な話のような印象があったけれども、事件の真相はわりと土俗的な部分に由来するもので、当時の時代というものを感じさせる。今から考えると、そんな馬鹿なと思わざるを得ない事柄が事件の原因であるのだけれど、それはそれだけ今の社会がここで問題となった事柄に対して寛容になったということであって、そのことを思うと少しはましな世の中になったのかもしれない。
この本が書かれた翌年、日本の出産率は驚くほど低下した。丙午の年だ。丙午の迷信がまだ信じられていた時代なのだ。
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