浅倉久志が亡くなったとき、この『奇跡なす者たち』もお蔵入りになってしまうものだと思っていた。
そして、出版リストの発売予定に上がった時も、国書刊行会のことだから実際の刊行も少し延びるだろうと思っていたら順調に刊行された。
この本の題名どおり、どこかで奇跡なす者たちが素晴らしい活躍をしてくれたおかげのような気もする。
しかし、実際に手にとり読み終えた後でも、自分が手に入れたこの本は本当の『奇跡なす者たち』ではないような気が少しだけする。たしかに、浅倉久志は完成半ばで逝去し、酒井昭伸が後を引き継いで解説などを書いているのだから、本来出る予定だったものとは少しだけ異なるのは当たり前だ。
しかしそれとは別に、まがい物っぽいというか、どこかしらキッチュな要素が漂っている感じがする。
それは多分、ジャック・ヴァンスの作風から来るものなのだろうと思う。
ありふれた物を組み合わせて、見たこともない異様な文化を創り上げる手腕。それはときにグロテスクで、ときに滑稽で、そして独特の美意識が存在する。そんなジャック・ヴァンスの作品は僕にとってキッチュなものなのだ。
だから、本来出る形ではない形で出た、良い意味でのまがい物っぽいキッチュなこの本は、意図せずしてジャック・ヴァンスの作風と同じという理想的な形の本になったのだ。
奇跡なす者たちが何処かにいるに違いない。
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