地球全部が保護地区となり、地表で暮らすことができなくなった未来。人類は土星のリングのような形で地上から35,000メートル上空で浮かぶ巨大なリングを作り上げ、そこで生活をし始める。
設定だけをみればハードSFなのだが、そんなハードSF的な巨大なガジェットを舞台にしてほのぼのとした人間ドラマを描いたのがこの『土星マンション』だったのだけれども、当初からほのぼのとした部分だけではなくかなりシリアスな内容を孕んでいた。
リング内は大きく分けて上層・中層・下層に分かれておりそれぞれが階級社会を構成して下層に住む人々は上層に住む人たちに比べ下流の扱いを受けている。
善意もあれば悪意もある。どちらかといえば善意よりの物語ではあったけれども、主人公の純粋さとそれに拮抗する悪意の存在がすばらしい。階級社会が根底にあるので虐げられた人間のそれ故の悪意を持つ人物が登場するのは必然的だったのだが、作者はそれ以外に快楽のための純粋な悪意を持つ人間を登場させた。そして彼には名前も与えられていない。自分の行為を悔やみ改心する人もいれば、改心しない人もいる。そんな存在として名もない彼は描かれているのだ。
そんな物語がどのような地点に着地するのか不安と期待と両方を感じながら読み続けて来たが、主人公が地表に着地するということで綺麗に物語として着地した。
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