これは面白かった。
といってもお話が面白かったという意味ではなく、今までの森見登美彦の作風から京都とか、饒舌な文体とか、奇抜で怪しげな登場人物とか、そういった森見登美彦の小説を構成していた要素をとことん取り除いてみたのに、その結果出来上がった物語はやっぱり森見登美彦の世界であってそれ以外の何物でもなかったということだ。
もちろんお話の方も面白かったのだが、作者がどこかのインタビューでしゃべっていたとおり、この小説は森見登美彦版、スタニスワフ・レムの『ソラリス』で、得体のしれない海が登場して、そこから生命体が生まれてくるのは『ソラリス』のオマージュであれば当然のことだが、それだけではなく「ソラリス学」の部分もしっかりと継承して作中に盛りこんであるあたりが読んでいて嬉しくなる。
しかし、読んでいて一番ハッとさせられたのは後半過ぎ、主人公の友人であるウチダ君が発見したこの世界の秘密に対する自己の仮説を語る部分だ。
ウチダ君の仮説そのものは面白いけれどもそれほど目新しいものではない。しかし、ウチダ君が自分の見つけた仮説を主人公にうまく説明できないまま、たどたどしく説明をし、その説明を聞きながら主人公が少しずつその仮説を理解し、そしてウチダ君自身も自分の仮説をより深く理解して様子が素晴らしいのだ。
森見登美彦はなんでこんなに子供が物事を理解していくさまをこんなにも上手に描くことができるのだろう。
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