日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した作品なのだが、読み始めてしばらくすると疑問がでてきた。
いったいこの話のどこがファンタジーなのだろうか。
もっとも日本ファンタジーノベル大賞はその名前こそファンタジーという名が付いているけれども、第一回受賞作が酒見賢一の『後宮物語』で、一般的なファンタジーではない。
そしてこの受賞がその後の日本ファンタジーノベル大賞の傾向を決定づけさせてしまったのだが、それでも『後宮物語』はまだ最初の時点で架空の物語という要素があったのだが『ヤンのいた島』に限っては舞台となる島が架空なだけでそれらしい要素が見い出されない。確かに主人公はハラルト・シュテュンプケが書いたフィクションの『鼻行類』を読んで、それが実際に存在すると信じている女性で、そのあたりはファンタジー的な要素にもつながるのだが、しかし、主人公が鼻行類がいるはずだと信じてやってきた島は平和な島ではなく、武力紛争が起こっている現実的な島なのだ。
しかし、そんなふうに思いながら読み進めていくと、少しずつ物語の流れに違和感を覚え始める。幾つものありえたかもしれない、もしくはもう一つの世界としてありえた世界が作者の手によって侵入し、徐々にこの物語は極めて残酷で悲しみに満ちた物語へと変化していく。
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