ミステリ小説に興味のない人にはまったく興味のない話だろうけれども、台湾という国はミステリ小説において日本と密接な関係にある。
連城三紀彦や泡坂妻夫といったミステリ作家を輩出した雑誌『幻影城』の発行者、島崎博は本名、傅金泉という台湾人である。彼が日本に来てミステリに興味を持ち、そして『幻影城』という雑誌を作らなかったとしたら、日本のミステリ事情は大きく異なっていたかもしれない。
ミステリ作家、島田荘司はその逆で、中国語で書かれたミステリの発掘に勤しんでいる。
この本は、第三回、島田荘司推理小説賞受賞作である。
第一回受賞作の『虚擬街頭漂流記』は以前に読んだことがあり、なかなかおもしろかった記憶があるが、残念なことに同じ作者の次の作品が翻訳されることもなく、僕の中では記憶が薄れていってしまった。
第二回はどうかというと、受賞作が翻訳されたことも気が付かず、今回、第三回受賞作が翻訳されたことでようやく第二回受賞作も翻訳されていたことに気がついたありさまだった。そもそもこの賞、毎年行われているのではなく、二年に一回行われているのだ。注意していないと見過ごしてしまう可能性も高い。
さて、本題に入ろう。
タイトルに「漫画大王」とあるだけあって、作中で漫画が重要な鍵を握っている。
では、台湾の漫画事情はどういうふうになっているのだろうか。この物語の時代背景は1970年代で、当時の台湾は日本の漫画を海賊版として出版していたらしい。
時代が時代なので、この本の中で登場する漫画は永井豪の『マジンガーZ』など、当時のロボット漫画が大半だ。そもそも漫画そのものが親からすると教育によろしくない存在だが、子どもたちにとってみればこのうえない娯楽であるというのは、日本でも台湾でも同じである。
海賊版とはいえども、登場人物の名前はほとんど台湾人らしい名前に置き換えられているあたりは手が込んでいるのと感心するのだが、それでも海賊版は海賊版である。いまは著作権を保護する国際条約に加入しているので海賊版が横行しているという事態はなくなったのだが、そのことに関しては物語とは関係ないレベルの話だ。
オビの惹句に二度読み必死などと書かれているので叙述トリックが使われているのがまるわかりだが、ページをめくるといきなり1章ではなく12章から始まり、12章が終わると1章が始まるので、その構成を見ても叙述トリックが仕掛けられているとしかいいようのない構成である。しかし、そこを隠そうとしないあたりが作者の自信の現れなのかもしれない。
読み終えてみると、叙述トリックは仕掛けられていたけれども、その部分に驚きがあるわけではなく、登場人物のが行なった非人間的な所業と、漫画好きだったら確かに殺意を抱くかもしれないなと思わせられる動機の部分に、漫画好きな僕としてはどちらかといえば生々しさを感じてしまった。
コメント