書き割りの向こう側

1989年にデビューして1992年には最初の単行本が出たのに2010年に『海辺へ行く道 夏』が出るまで僕は三好銀という漫画家の存在を知らなかった。
連載していた雑誌を読んでいなかったころなので無理もない話なのだが、かといって読んでいたら、単行本を買っていたかといえば微妙なところかもしれない。それを思うと、『海辺へ行く道 夏』ではじめて三好銀の漫画に触れたことはタイミングが良かったのだと思う。
なにしろ、それまで三好銀は長いこと沈黙していて漫画を発表していなかったからだ。
<海辺へ行く道>シリーズが完結して、といっても三好銀の不思議な世界は終わってしまったわけではないのだが、その後『もう体脂肪率なんて知らない』というこれまた風変わりなタイトルの漫画を発表し、翌年は本が出なかったけれども、今年は新作が出るかもしれないと思っていたところで、その新作の発表と同時に訃報を知った。
作者と関わりのあった人たちが寄稿文を載せていてその中で、三好銀本人が、自分の漫画の背景は書き割りであると言っていたのは思わぬ情報だった。
そうか、あの背景はそうだったのか。
書き割りであると思えばあの不思議な背景の描き方は納得できる。
日常の風景、日常の中で起こる取り立てて不思議ではない出来事、それでいて非日常への扉は物語の背後に常に存在していて、それは書き割りである背景の向こう側へとつながっていたのである。

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