失業と失恋を同時にしてしまった三十路女の主人公が傷心旅行先で一人の老人と出会ったところから物語が始まる。
失業と失恋でさらに傷心旅行と明るくなりそうな要素が全く無いくせに物語は徹底的に明るいのは主人公のキャラクター造形の面白さだからだろう。
主人公が転がり込んだ先は経営難の地方のオーケストラ楽団。
音楽を扱った物語は読んだことがあるけれども、オーケストラ楽団を扱った物語を読むのはこれが初めてだった。
オーケストラ楽団の経営は難しいということはなんとなく想像ができる。いろいろな娯楽の種類が増え音楽を聞くということが少なくなってきている上にクラシック音楽というものを聞くとなるとさらに少なくなる。そもそも音楽に対価を払うという考えすら薄れつつある。知名度の低い楽団となればパトロンのような存在がなければ経営が苦しくなる。
そんな苦しみしかないところに失業……はともかくとして失恋した主人公が入社することになるのは成り行き上のことなのだが、そこにいたるまで、さらにはそこからの流れはテンポよくそして面白い。
オーケストラ楽団に関しては知らない世界の話だったので、予算がなさすぎて、演奏会すらままならない状況、スポンサーからも見放されそうな気配の中、起死回生をねらっての演奏会に向けて、様々なアイデアを出し、学生達を巻き込んで、少ない予算の中でやりくりするという展開はなかなかおもしろく、だからといってためになるのかといえばそんなことはないのだが、登場人物たちが魅力的で、主人公たちのその後が知りたくなって続編を期待したくなる話だ。
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