『竜のグリオールに絵を描いた男』ルーシャス・シェパード

数千年前に魔法使いとの対決に敗れ、動けなくはなったものの意識はあるらしく、さらに体も動かせないけれども成長することはできて、とうとう全長1マイルもの巨大な体に成長してしまった竜のグリオールにまつわる一連の物語をあつめた短編集。といっても残念なことにすべての作品が収録されているわけではなく、前半だけだ。この本が売れれば残りの作品も出る可能性があるらしいので、売れてほしいと思う。
というのは個人的な理由だけではなく実際に読んで面白いからだ。
過去に出版された初期短編集『ジャガー・ハンター』に収録された作品と比べると雰囲気がだいぶ異なる。根底の部分は同じだけれども、やはり竜のグリオールという存在が大きいのだろう。
正直な話、表題作はそれほど面白いとは思えなくって、どちらかといえばそれ以降の作品のほうが楽しむことができた。たぶん、物語の中で流れていく時間の長さと実際の紙面の比率の問題なんじゃないかと思うのだが、要するに表題作はもう少し長くても良かったんじゃないかと思ってしまうわけだ。
ルーシャス・シェパードって僕の場合はSF作家というよりもスリップストリーム文学の人というイメージが強くってだから『ジャガー・ハンター』なんかは、読んでいてそのとおりだなあと思うわけだけれども、この本の場合はぜんぜん違う。「始祖の石」なんかは法廷物でありミステリとしても十分に面白い。それでいてしっかりと竜のグリオールにまつわる話として成立しているので一粒に二倍おいしい話だ。
残りの物語も翻訳されるといいなあ。

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