『勇者たち』浅野いにお

浅野いにおはたぶん、何かを手に入れたのだろう。その何かがなんなのかをうまく説明することが僕にはできないのだが、浅野いにおの漫画を読み続けてきて、その変化を感じていると、そうなんじゃないかと思えて仕方がない。
『勇者たち』はロールプレイングゲームのフォーマットを踏襲している。しかし、ここで語られるのは魔王を倒したあとの物語で、そしてそれはワクワクドキドキするような物語ではない。そもそも魔王を倒して世界は平和になったのだから冒険もなくなった。
しかし、魔王を倒したあとで平和が訪れたと同時に、もう一つ生まれた。
それがこの漫画で描かれる事柄だ。言い換えるならば、人が生きている限り、負の感情は無くならないということである。次の魔王の予備軍が待ち構えている。
ああ、なんてすごいところに目をつけたのだろうと思う。
魔王を倒し、魔王を倒すという一番の目標を失った勇者たちは次々と負の感情に捉えられていく。そして魔王となる。
魔王とはならなかった残りの勇者たちはかつての仲間だった魔王を倒す。
こんな物語が勇者が魔王を倒すというロールプレイングファンタジーの物語なのだろうかといいたくなってくるのだが、そのとおりで、終盤になってこの物語が正当なロールプレイングファンタジーの物語となって終わるのだ。うまいなあ。

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