ジョン・ブラナーの翻訳された本は今となってはすべて絶版、と思えばなんのこと、オンデマンド出版ではあるが一冊だけ現在でも入手可能な本があります。
それがこの本『原始惑星への脱出』で、読書意欲を減退させるけばけばしい表紙の久保書店のSFノベルズです。
しかしこの表紙絵、個々のパーツをみれば意外と内容に忠実で、これだけ忠実でありながら全部が組み合わさるとこんなイメージになってしまうのが不思議で、表紙と題名でずいぶんと損をしている気もするけれども、当時はどうだったのだろう。
地球を遙か遠く離れた植民惑星「ツァラ」の主星が超新星と化す。かろうじて脱出した人々は宇宙船の酸素がなくなろうとするぎりぎりのところで生存可能な惑星に不時着することができた。そして最初の冬を越し、夏がやって来たところから物語の幕が開ける。
というわけで、この物語は脱出パニックでもなく、過酷な生存サバイバルでもなく、生き残った人々の間で起こる様々な確執の話になるのです。
脱出前は大陸指導官だった夫妻。彼らは大陸指導官としては有能だったのかも知れないが、なんの道具もないこの惑星では無能に等しく、それでいながらリーダーシップをとろうとする。宇宙船の船長はリーダー的な立場をとらなければいけないにも関わらず、宇宙船が水没して修理不能な状態に心痛め、身をやつしてしまっている。その他、自由奔放に男と寝てばかりいる女。さらにはその女に嫉妬する女。構ってもらいたいために自殺未遂する娘、などなど。
お前らせっかく助かったのにわがまますぎるぞと読んでいて言いたくなる。
一方で、この惑星に不時着したもう一つの宇宙船グループの方がいて、こちらは宇宙船の船長が独裁制を敷き、難民達を奴隷のごとくこき使い宇宙船の修理をしようとしている。
そんなわがまま集団の中で一人がんばろうとする主人公は心痛める宇宙船の船長だ。
表紙のイメージからはかけ離れた地味ながらも地に足のついたしっかりとした内容。それでいてあまり重苦しくならないところはジョン・ブラナーらしいところかもしれません。
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