『お聖どん・アドベンチャー』田辺聖子

いまのところ唯一読んだことのある田辺聖子の小説。
そもそもSFやミステリが好きでそれ以外の小説には殆ど見向きもしなかった僕がこの本を手にとったのはタイトルが『お聖どん・アドベンチャー』だったからに他ならない。僕の好きな映画のひとつ『ポセイドン・アドベンチャー』をもじった題名であることは当時の僕には一目瞭然だったからだ。
しかし手にとったからといって買うまでにいたるかといえば結局は内容しだいなのだが、小松左京や筒井康隆といった実名が登場するうえに、言論の自由が無くなり小説家は自由に小説を書くことができなくなった未来というSFっぽい設定。もはや買って読むしかない。ということで最初に読んだのはかれこれ30年以上前のことだ。
最近になってふとしたことで古書で見かけたので懐かしさもあってついつい買って再読してみた。再読といってもほとんど内容を覚えていないので初読に近かったけれども。
でぶでぶ牧場
うしろ指
あひるのあんたはん
夢の素
円盤芸者
古墳屋
人体接着剤
女の内閣
と計八篇の連作短編集。
個々の話はそれぞれ独立しているが、同じ世界で時系列もこの順番になっている。
主人公はお聖さんこと田辺聖子。言論統制されて自由に小説を書くことができなくなってしまったため、この時代の作家たちは政府のいいなりになって物を書くか廃業するかのどちらかしかなかった。お聖さんは後者のほうで仲の良かった小松左京と筒井康隆が鯨の牧場の経営をしてそれなりに生活をしているのを知り、彼らの牧場で働かせてもらうことにする。牧場主が小松左京で、カウボーイならぬホイールボーイが筒井康隆だ。
「でぶでぶ牧場」は基本的に西部劇のフォーマットそのものなのでそれほど目新しさはないけれども、後半になっていくにしたがいSF度が増していく。もちろんバカバカしさもだ。主人公たち三人組は知恵をしぼってさまざまな商売を始め、途中までは順調にいくのだけれども、なんだかんだいって最後はうまくいかなくなる。
実名で登場する作家はこの三人だけではなく野坂昭如、五木寛之、藤本義一、佐藤愛子、戸川昌子、眉村卓等、かなり大勢の作家が何らかの形で登場するのだが、この本が出た当時は全員生きていたけれどもいまは物故者のほうが多い。

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