天藤真の代表作といえばこの『大誘拐』なのだけれども、今まで未読だった。
先に映画を見てしまったというせいもあるけれども、映画化される前から知っていたし、天藤真の他の作品は読んでいたので、読まず嫌いだったという理由が大きい。
そもそも、ミステリは好きだが誘拐物はあまり好きではないのだ。
ミステリにおける誘拐物というと焦点はどうやって身代金を手に入れるかという部分にあるのが大半でそこにあまり魅了されないのである。
が、積読だったので意を決して読んでみた。
1978年に発表されたこの作品、今から40年近く昔に書かれたのであるが、全然古びていない。いや、細かな部分は確かに古いのだが、全体は大丈夫である。
タイトルに偽りなしの大誘拐。というのも身代金が100億円である。その後に書かれた誘拐のもの作品でもこれ以上の金額というのはないのではないかと思う。
西村京太郎の『華麗なる誘拐』では身代金が5000億円と『大誘拐』以上の金額だが、こちらは誘拐する人数も桁外れで、日本国民1億2000万人を誘拐するのだから、一人あたりの金額でいえば遥かに少ない。
作品が古びていないのは、全体に漂うユーモアの部分が大きく、リアルでありながらどことなく浮世離れした部分が一種のファンタジーとしても読むことができ、さらには身代金の額もさておき、人質が無事であることを立証するために犯人たちが取った行動がとんでもない行動で、そこまで読むと、次はどんな予想もつかないことをしてくるのか楽しみになってくる。
そして、誘拐物における一番の問題である身代金の受取である。
100億円ともなるとジュラルミンのケースで67個ほど必要になる計算だ。どう考えても無茶であり、ここまで来ると、どうやって受け取るのかという部分が、面白さの中心となってくる。
果たして犯人たちは身代金の受取に成功するのか、失敗するのか。
犯罪でありながら、登場人物の全員が幸せになるという終わり方も素晴らしい。
読んでよかったよ。
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