『怪人ジキル』波野次郎

『怪書探訪』で紹介されていた波野次郎の怪書『怪人ジキル』がなんと復刊した。
かつて、戦後最大の怪書として有名だった栗田信の『醗酵人間』も驚くことに復刊して、もっとも僕は買わなかったのだが、『怪人ジキル』のほうは勢いに任せて買ってしまった。
そもそも『醗酵人間』にしろ『怪人ジキル』にしろ傑作というわけではない。あまりにもぶっ飛んだ内容だから怪書と呼ばれるわけで、それをしりながらもあえて読むのは酔狂としかいいようがないのだが、もちろん何を読もうが当人の自由である。
『怪人ジキル』のほうは盛林堂ミステリアス文庫といういわゆる自費出版である。したがって一般書店には流通しないし、発行部数も少ない。
それに比べると『醗酵人間』は出版社が出版する一般書店に流通する書籍なので後で読みたくなったとしても手に入れることは不可能ではない。
そうなると後で読みたくなっても手に入らなくって後悔するかもしれない『怪人ジキル』はとりあえず手に入れておく方が無難である。
そういった理由で思わず買ってしまった。
表紙もオリジナルを踏襲した安っぽい雰囲気、挿絵もしっかりとそのまま収録するという凝りよう。パラパラと眺めるだけでも楽しいのだが、実際に中身を読んでみると、幻滅する。
どんな内容なのかに関しては、戦後秘話、タンスが殺人した大阪の驚愕事件を読んでいただくとして、あえて読む必要があるのかといえばまったくない。強いて言えば、終盤の殺人タンスが登場した以降の部分からが面白いのだが、それはそれまでの展開をちゃぶ台返しにしてしまうようなものでもあるので、変な小説を読んだものだなあという感想しかでてこない。もちろん買って損したとか読んで損したなどということはまったくない。その点では僕自身も酔狂な人間の一人であることは確かだろう。

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