積ん読消化。
5篇の短編集でどの話も切れ味が良い。
あまりにも切れ味が良すぎるので読み終えて釈然としない。言い換えるならば、鎌鼬という妖怪がいるのだが、この鎌鼬に切られたばあい、その切り口があまりにもきれいなので痛みが感じされないといわれている。だからすぐに切られた事に気が付かないのだ。
この本に収められた短編もそんな感じで、切れ味が良すぎるので切られたことすら気が付かない、いや、気がつくのだが、その切れ味の凄さに気がつくのはしばらくしてもう一度物語を振り返ってからのことである。
巻頭の「目撃者はいなかった」は駄目なサラリーマンが仕事の失敗を取り繕うためにした行為が予想外の形で悲劇に結びつき、さらにその悲劇を無視した結果、とんでもないサイコパスを呼び起こすという話。
想像させるだけで終わらせている部分が恐ろしさを醸し出している。
「ありがとう、ばあば」はアンファン・テリブル物になるけれども、タイトルの意味が最後で別の意味というか、たしかにばあばに対するお礼の意味には違いないのだが、どうして感謝することになったのかという部分が恐ろしい。
「絵の中の男」は読み終えてシオドア・スタージョンの「考え方」を思い出した。
「姉のように」は読んでいて辛くなる話で、どういう構造なのかは途中でわかったけれどもそれでも読みすすめるのがつらい。
「許されようとは思いません」は唯一ラストが爽やかで一番最後に持ってきてくれたおかげで気持ちよく本を置くことができたのだが、しかし内容はというとこちらもひねりがあって、いやそのひねり具合がぶっ飛んでいてこれで後味が爽やかにもっていくことができるのはすごい。
文庫版では初版のおまけとしてカバー裏に掌編が収録されていて、「許されようとは思いません」に繋がりのある話になっている。あくまでおまけなのだが、これまたちょっとイイ話になっている。
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