- 著 トム・ロブ・スミス
- 販売元/出版社 新潮社
- 発売日 2008-08-28
- 著 トム・ロブ・スミス
- 販売元/出版社 新潮社
- 発売日 2008-08-28
現実と理念があまりにも食い違っているなどということは当たり前のことで、そんなに驚くことではないと思うのはある意味、歳を取った証拠である。しかし、ああ、なんだか、ソビエトという国が存在していたということは遙か昔のことになって、風化してしまったんだねえ、と思ってしまう。
まあ、それはともかく、うまく作ってあるなあと感心してしまった。
理屈と感情という二つの要素を様々なレベルで対比させてあるのだ。
連続殺人事件は資本主義の弊害だから存在しないという理屈は一人の人間の感情によってもろくもうち砕かれてしまう。
主人公は部下の陰謀によって左遷させられ、そして連続殺人事件の証拠を見つけたことによって、事件の再調査を試みるのだけれども、これも別段、純粋に改心したというわけではなく、自分に残された時間は長くても一年、それならば自分のやりたいことをやる。という打算的な感情がある。妻をスパイとして告発するかどうかを主人公に相談された主人公の父親は、告発すれば一人の命と引き替えに三人の命が助かり、告発しなければ四人の命が失われると考える。ここには命の重さなどという物は存在しないのだ。そしてそれでいて今の生活を失いたくないという打算的な感情があることも隠しはしない。
主人公を陥れる部下でさえ、感情的な憎しみと、主人公の行動を理性でもって理解しようとする気持ちを持ち合わせている。
極めつけは主人公の妻だ。
愛しているから結婚したわけではない。プロポーズを断れば自分が死ぬかも知れなかったから結婚したのだと主人公に言う。妻には妻の論理と感情があり、それ故に主人公自身も、妻を愛していたのか、そして愛しているのか自問することとなる。しかし、結局のところは国家に反逆する立場となっている以上、お互いはパートナーとして協力するのが現実的な解だと結論するのだ。
やみくもに浪花節になど走らないところが素晴らしい。
そして、国家などという物は所詮は入れ物でしか無く、ソビエトという国が恐ろしいというよりは、いつだってその中身である人の心の中にある闇が恐ろしいのである。
アルカージ・レンコと比べると主人公は救われすぎという気もするけれども、まあいいか、こういう結末も。
コメント
「チャイルド44」ロシアが舞台の新鮮ミステリー
「チャイルド44」★★★
トム・ロブ・スミス著
スターリン体制下のソ連、
自由主義の常識とは全く違うところで
当然のように社会は動いていた、
この事実だけで、ミステリーと言うか
サスペンスたっぷりだ、
たぶんある程度は現実を描いたものだろう。
そう思うと、
個人の意思が押さえつけられた様な社会を
人間は受け入れてしまうものなのか、
何か違う、こんなことオカシイ
そう思いつつも人間はその苦しい枠の中で
それでも自分らしくやっていけるものなのか。
したたかであり
弱くもあり
だから愛しいのか。
寒い寒い国で子供を狙った
連続殺人が発生する、
その事件をめぐって国家保安省の
敏腕捜査官の主人公が
犯人逮捕の為に
踏み越えてはならない一線を越えてしまう。
こんなふうになら無いと良いがと
思う悪い方向にどんどんと進んでいく、
上下巻の読み応えのある作品だ。
映像になったら面白いだろうなと
思いながら読み進めた、
心の奥底の苦悩などが中心の
かなり難しい作品にはなるだろうが。
かなり面白く読めた作品だった、
でも実はラストを迎えてほっとした部分も、
そして蛇足的な部分に目をつぶれば
これはかなり良く出来た作品だ。
都会が舞台の慌しい展開の小説と比べ
新鮮なテンポと新しい感じの恐怖
しっかりとした描写で読ませてくれた。
でもなんだろう、読み終えるのがもったいないとまで
感じるには何か物足りなさも、
でもそれは贅沢なことだろう。
★100点満点で75点★
soramove
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今年は文句無く最高!という作品には
めぐり合えなかったな。
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