- 著 伊井 直行/
- 販売元/出版社 講談社
- 発売日 1996-03
『お母さんの恋人』は『濁った激流にかかる橋』と同じ町を舞台としていて繋がりがあることは知っていたのだが、文庫化された『濁った激流にかかる橋』の解説を見て『三月生まれ』も繋がりがあることを知ったのでますます読んでみたくなったのだが、悲しいことに伊井直行の本というのは絶賛絶版中なのである。
読むことが出来ないとわかるとますます持って読みたい衝動が強くなるのだが、幸いなことに運良く手に入れることが出来たので読んでみた。
わずか200ページの薄い本で、ページを開くと一ページあたりの行数の少なさにも唖然とし、長編というよりも中編といったほうが良いほどの分量に驚いたのだが、それ以上に驚いたのはもの凄く普通の小説だったこと。
『お母さんの恋人』のような変わった語り手ではないし、『濁った激流にかかる橋』のような不思議な話でもない。両方の小説と繋がりがあるということだったのだが、舞台はおそらく違う場所で、明確な繋がりらしい繋がりは無く、強いて言えば主人公一家の名字が「中子」というだけだ。
なんだか騙されたような気分でもあるのだが、もともと井伊直行の小説というのは騙された気分にさせられる話なので不満ではない。
むしろ、もの凄く普通の話を、やけにみずみずしい描き方でもって読後感良く語られたので、こういう騙され方ならばもっと騙して欲しいなあと思ってしまうのであった。
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