10ドルだって大金だ

収録作が減ってページ数が少なくなっているとはいえ、晶文社版よりも安いのはうれしいなあ。しかも無粋なバーコードの部分がシールになっているからはがせるし。
中身の方は前作と同じテイスト。殺人事件を描いても全然血なまぐさくならないところが特徴でもあり気楽に読める点なんだけど、それが欠点でもある。アンファンテリブル物であっても恐ろしくならないのだ。もっとも、そこがなんともいえない不思議な味にもなっているので全くの欠点とはいえないが……。
前作で一番気に入った謎の超人カーデュラ物が一編、しかも番外編的なものしか収録されていないのがちょっと不満なところ。正体なんてばればれなのに最後まですっとぼけてそのまま押し通すところがいいんだよなあ。そんなカーデュラ物の代わりにターンバックル物が五編収録。こちらのシリーズも好きなので五編もあるとけっこう満足できます。
こちらは鋭い推理を披露しながらも彼の考えとは違う形で事件が解決してしまう迷刑事。「クライム・マシン」の時にはロバート・L・フィッシュのシュロック・ホームズ物を彷彿させるなんて書いたけど、あらためて読んでみるとコリン・デクスターのモース警部シリーズにも似ているなあ。
モース警部シリーズはいたって真面目な話ではあるけれど、クロスワードパズルが趣味という点や、次々と仮説を立ててはうち砕かれてしまうところ、いたってシリアスな話でありながらモース警部の妄想いや推理がギャグになってしまう点、そっくりなんだよなあ。「キドリントンから消えた娘」では、自分が関わった事件なんだからこれは犯罪でなくてはならないのだなどと叫ぶくらい。これを読んだときには唖然としたものです。