寡聞にして知らなかったんだけれども、児童もののダークファンタジーとして有名な作品だったらしい。
らしいというのはすでに絶版になってしまって久しかったからで、児童向けの小説の場合、一度絶版になってしまうと復刊される機会がほぼなくなってしまうのでこれはこの小説だけの話ではないのだが、そういったこともあって知らなかったのだ。
しかしクラウドファンディングで復刊することとなった。
というかこの小説はじつは三部作で残りの二作は翻訳すらされないままだったのだ。
で、今回残りの二作も含めてクラウドファンディングが成立して三部作全部が翻訳された。
一本のかしの木がある。
そのかしの木には一本の金の鎖が巻きつけられている。
その金の鎖につながれた一匹の猫が語る物語だ。
舞台となるのはここではないどこかの世界なのだが、にわとりの足を持つ家に住む魔法使いが登場することからこの魔法使いの老女はスラヴ民話に登場する妖婆、バーバ・ヤーガを彷彿させる。
絶対的な権力を持つ皇帝や北の国の人々、熊や狼、そして雪。
魔法使いの老婆が奴隷女が生んだ女の子を弟子として引き取りに来るところから物語は始まる。
生まれた女の子が弟子となるのはすでに決められていることで産みの母親にはどうすることもできないのだが、魔法使いに渡さずに自分の娘として育てたところで娘も奴隷、そして皇帝の持ち物に過ぎない一生を送ることを考えると魔法使いの弟子となるのはそれよりもマシだろうということで奴隷女は生まれたばかりの赤ん坊を魔法使いにわたす。
赤ん坊は魔法使いの魔法によってあっというまに成長し、魔法を学んでいくのだが、魔法使いたちがなぜ魔法を学ぶのかは明らかにはされない。魔法という圧倒的な力をもちながらも魔法使いたちはただ、魔法を学び、そして三百年の人生を生き、弟子を育てる。
一方で有る意味、魔法使い以上に圧倒的な力を持つのが皇帝で彼はこの世界すべての所有者であり、無慈悲な王でもある。
皇帝が治める国は決して裕福ではなく国民たちは生活に苦しんでいる。しかしそんな状況でも魔法使いたちは何もしようとはしない。あるがままに、決められた生を送るだけでこの世界を変えようとはしない。
そして仮に皇帝が亡くなったとしても、別の人間が皇帝となるだけで、この世界が良くなる理由など何一つ無い。
よくもまあこんな夢も希望もない物語を児童向けの物語として書いたものだと思うのだが、残酷で寒々しいけれども、度を越した残酷さは無い。
どこか神話的な物語だからだろうか。
コメント