『ヒッキーヒッキーシェイク』津原泰水

いつものごとく買ったまま積読にしてしまっていたのだが、作者と版元との間で問題が起こって、文庫本は別の出版社で出ることになった。もちろんそれ自体にたいしてはどうこう言うつもりはないのだが、僕が買ったのは電子書籍版のほうなので、権利関係の問題でこの先もずっと読むことができるのかどうかが怪しい。データそのものは端末にダウンロードしてあるので、それを消さない限りは大丈夫だと思うのだし、読むことができなくなってしまったとしても文庫のほうを新たに買いなおせばいいことなので、気にする必要もないといえばないのだが、しかし買った以上はせめて読むことができなくなってしまう前に読んでおきたいという気持ちもある。ということで早速読むことにした。
タイトルから想像できるように主要登場人物の大半はヒキコモリだ。そしてそんな彼らの中心にいるのは、ヒキコモリを支援することを仕事としているカウンセラー竺原。
彼が何をしようとしているのか。
不気味の谷を超えるということをしようとしているらしい、というのはすぐにわかる。
ヒキコモリたち一人一人の特技をもってコンピューター上で人間を創り上げるというのだ。
しかし創り上げてなにをするのかは明らかにされない。竺原自身もカウンセリングをしているといえども、どこか胡散臭い。
しかし、胡散臭さは人生を達観している、あるいは達観せざるをえないような境遇にあるからでもあり、どうじに彼自身の優しさでもある。
終盤はちょっと駆け足的な感じもするけれども、それをいうならば最初からそんな感じの展開であり最後までテンポが崩れていないわけで、登場人物たちに共感してしまったから、もっとじっくり書いてほしいという気持ちになってしまったせいだろう。
凄腕のハッカーの存在がちょっと出来過ぎというか、いくらなんでもそこまではできないだろうという気もしないでもないのだが、それはまあそういう世界だということであればそんなに気にすることもない。
すごく繊細で傷つきやすい題材を豪快にかき回してそれでいてちゃんと丁寧に描いているから読んでいて心地よい。

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