『五佰年BOX』宮尾行巳

幼馴染の家の倉のなかから見つけた古い木の箱の中は中世の日本と繋がっていた。
と書くとその木の箱がタイムトンネルになっていると思うかもしれないが、単純なタイムトンネルではなく、木の箱の中に中世の日本の世界が小さな世界として収まっているのだ。つまり箱の中には小さな木や家があり、小さな人々が動き回っている。そして箱を移動させると中の世界も移動する。
箱の中に手を入れることも可能でそうすることによって過去に介入することができてしまうのだがあくまで過去のその時代に存在していたものしか入れることはできない。
主人公はふとしたはずみで、その過去に介入してしまう。殺されようとしていた中の人間の一人をおもわず助けてしまったのだ。
その結果、幼馴染の女性は現在の世界から消え、変わりに幼馴染となっていたのは男性だった。主人公の記憶には幼馴染の女性の記憶は残っていたが、同時に、幼馴染の男性の記憶も出現する。そして徐々に彼女の記憶は薄れていく。
過去に介入することで現在が変わってしなうのであればもう一度過去に介入すれば彼の変わりに彼女を取り戻すことができるかもしれない。
という形で物語は進んでいくのだが、というのも主人公は彼女に恋心を抱いていたからで、しかし一方で幼馴染の彼のほうからすれば、主人公がもう一度過去に介入すれば自分が消えてしまうかもしれない。実際のところ、主人公は過去に介入して幼馴染の彼の父親の人生を変えてしまう。そもそも過去に対してどういうふうに介入すれば現在が自分の思うように変化するのかもわからないわけで、それでいて主人公は幼馴染の彼女と彼の両方を助ける、つまり両方を存在させたままにすると断言してしまう。
しかし、過去のタイムパラドックスを扱った物語、あるいは歴史改変物語を振り返っても、僕が知っている限りで、改変前と改変後を共存させるなんて話は聞いたことがない。そんなことができるかと思うのだが、なんとこれができてしまうのだ。

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