『夜行』森見登美彦

森見登美彦の傑作は『きつねのはなし』だと思っている僕は、森見登美彦が『きつねのはなし』以降、同傾向の話をなかなか書いてくれなかったのでやきもきしていたが、ここにきてようやく書いてくれた。そしてオビには10年目の集大成と書かれている。
森見登美彦の小説といえば京都が舞台で面白おかしい人物が登場してそしてちょっと不思議なことが起こることが多いが、『きつねのはなし』では面白おかしい人物が登場せず、京都を舞台に不思議なことが起こる。ようするに怪談である。
森見登美彦の怪談は怖いのだ。
この『夜行』でも不思議なことが起こる。十年前に長谷川さんという女性が行方不明となり、それから十年後、その当時の仲間たちが再び集まり、そしてそこで一人ひとり不思議な話をしていく。
それぞれの話はそのからどうなったの、と聞きたくなるようなところで終わってしまう。彼らにとって不思議なことは起こったのだけれども、しかし今こうして彼らはその物語を語っている。つまりあちら側の世界へと踏み入れながらも、こちら側へと戻ってきたのだ。最終話は語り手自身の物語となり、それまでの物語が緩やかにつながっていき、そして彼もまたあちら側へと行きながらも最後はこちらに戻ってくる。生還したことを喜ぶべきなのかもしれないが、戻ってきてしまったという悲しみもあり、祭りの後の悲しさとは少し異なるけれども、なんとなくそんな感じのただよう物語だ。

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