フレドリック・ブラウンの唯一の未読長編ミステリ『Bガール』を読み終える。
といいたいところなのだが、本当にこれでブラウンの長編ミステリを全て読みおえたのかというと少々心細い。
というのも、『霧の壁』とか『パパが殺される!』あたりは読んだのかどうなのか記憶が怪しいのだ。そもそも、現物の本そのものを持っているのかどうかも怪しいのだが、生憎と調べようにも倉庫のダンボールの山の中からこの二冊を探しだすというのは不可能に近い。ネット上で書かれているあらすじを読む限りではたしかにそういう内容だったという記憶もあるけれども、それは実際に読んだ上での記憶なのかそれともどこかであらすじを読んだ上での記憶なのか判断がつかない。
まあ、それはさておき『Bガール』の話にもどそう。
<世界名作推理小説大系>という箱入りハードカバーのシリーズの一冊として、もっともベン・ベンスンの『九時間目』とのカップリングではあるが、ミステリの名作として取り上げられているくらいなのだから、ブラウンの他のミステリよりも面白いのかというと面白くはない。
しかし、これを取り上げるくらいならば他のものを取り上げたほうがいいのではないかという気持ちもある反面、ブラウンらしさが前面に出ている作品ともいえるので、これを選ぶしかないだろうという気持ちもある。
主人公は高校教師。長期休暇を利用してシカゴからロサンゼルスにほぼ無一文でやって来て、皿洗いのバイトをしながら堕落した生活を送っている。大学教授になるための論文を書くための社会調査の目的である。
そこで殺人事件に巻き込まれるのだけれども、巻き込まれ方が微妙で、殺された女性と最後に合ったのが主人公でその姿を牛乳屋に見られた可能性があるというだけである。
警察はその事実を知らないし、最初から最後まで警官も刑事も登場しない。
もちろん牛乳屋も主人公のことを直接は知らないし、警察に話したとしてもそこから直に警察が主人公の元へとやって来るわけでもない。
そんな具合なのだから主人公もあまり真剣に殺人事件に関与するわけでもない。なんとなくどうしようかあれこれぐだぐだと考えながらも一番真剣に悩むのはどうしたら酒にありつけるかということのほうである。
で、いよいよもってどうしようもなくなってくるとシカゴへと逃げることを考える。
もちろん主人公はそれでも良いかもしれないが読者の方はそういうわけにもいかない。
フレドリック・ブラウンの本領発揮はそこからで、物語の終盤になって一気に事件は解決する。それもそれなりの納得のいく理由を伴ってだ。
事件解決のための展開など殆ど無く、ただ酒を飲み漁っているだけのような物語で、殺人事件などおまけのような程度のいってみれば食玩における食品のような存在に近い物語でありながら、ここまで手際よくまとめられるとフレドリック・ブラウンの職人技をみせられたようでもあり、<世界名作推理小説大系>に収録されたのはあながち間違いではないと思わされてしまうのである。
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