昭和な街角

火浦功の新刊が出た。
遅筆で有名な作家で、新刊が出るというだけで話題になるという点では漫画界でいえば冨樫義博と同じでもあるが、冨樫義博は未完にした作品はないのに対して火浦功の場合はシリーズものはほとんど未完。冨樫義博は時として手抜きともいえる状態の作品を掲載するのに対して、火浦功の場合はもともとの作風が手抜きともいえる作風なので、気にならない。
シリアスな作品も書くけれども、スチャラカでいい加減、強いて言えば植木等の無責任男シリーズのような世界で描くので仮に手を抜いていたとしても全く気にならない。
1990年代まではそれでも作品を発表していたが、2000年以降になるとばったりと途絶え、それでいてたまに過去の作品が復刊したりするので、なんとなく仕事をしているような感じでもあり、忘れ去られるということもない。とはいえども、一昨年くらいには火浦功という人物は実は存在していなかったというデマが流れたりして、作品そのものよりも作者自身のほうが伝説となりつつある。
で、今回の新刊も全くの新作というわけではなく、雑誌連載されたままの短編を集めた落ち葉拾いのような本なのだが、本人によるあとがきだけは新作だ。
寄せ集めなので、ギャグ作品が多数でありながらも、「終わる日」というシリアスでリリカルな話があったりする。ある日突然、明日で世界が終わってしまうことに気がついた少年の話だが、気がついたのは少年だけではなく世界中の人々も気がついていて、それでもいつもどおりの生活を送ろうとして、それでいて少しだけ普段通りの生活を送りきれなくって、そのあたりが切なく、そしていじらしい。
そんな作品があるかとおもえば、「花の遠山署シリーズ キャロル・ザ・ウェポン」では、キャロル・ザ・ウェポンという人物が殺人事件を解決する話のように見えながら、キャロル・ザ・ウェポンは全く登場せず、地の文章でキャロル・ザ・ウェポンは道に迷っていた、とたった一行書かれるだけで、なおかつ、事件の捜査もほとんど進まないまま物語は終わってしまう。それでいて犯人はみつかり、逮捕される。納得はできないけれども、火浦功の世界であれば納得できる説得力をもった結末で、これはこれで素晴らしい。

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