ノワールあるいはノアールと呼ばれるジャンルの物語がある。
フランス語で黒を意味する言葉でそこから想像できるように、救いの無い物語である。
日本語に直すと暗黒小説と訳されるのでだいたい想像できるだろう。
歳をとってから、このノワールと呼ばれる物語がわりと好きになった。
元来、天邪鬼な僕はベストセラーになるような小説や話題になる小説をあえて読もうとはしない。
ほっこりする小説とか、感動する小説というのもほぼ無縁、そんな小説なんて、排泄物でも食べてらっしゃい、と多少上品に言えばそういいたくもなる。
もっとも、その手の系統の物語をまったく読まないというわけでもなく、まれに読む。
暗黒小説というのは時としてなかなかおもしろい。面白く感じられるというのは自分自身が、辛い状況に無いからで、その手の物語を楽しむことが出来るというのはある意味、自分自身が不幸ではないということでもある。
話がそれてしまったのだが、この物語、ノワールとしてはかなり変である。
主人公は大衆向けの食堂で働く男。年齢は定かではないが、20代半ばは超えているだろう。
彼の働く食堂にやって来た一人の女性に一目惚れしてしまった主人公はその場で仕事を止め、彼女と一緒に生活をすることにする。
既にこの時点で変だ。
仕事を辞めた時点で彼は無職でお金もない。お金もないのに二人は呑んだくれている。彼女のほうがトラベラーズチェックを持っていて、しばらくはお金の問題は心配しなくてもいいのだが、刹那的である。
しばらくすると予想通り、お金がなくなりにっちもさっちもいかなくなるのだが、二人の出した結論は死ぬことだ。
もはや変だ。いやノワール的には、とことん落ちていく物語として正しいのだが、それでも理解に苦しむ決断をする二人である。そして中盤過ぎ、さらなる予想外の展開を迎え、もはやノワールといえるのかすらも怪しくなるのだが、ここまでくると物語から目が離せなくなる。
ノワールでありながらノワールから逸脱しているともいえるし、それでいて最後に明かされるある事実を知らされると、なんだかとんでもない物語を読まされたという感想しかもてなくなる。
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