オラシオ・キローガは早川書房の異色作家短編集『エソルド座の怪人』に収録された「オレンジ・ブランデーをつくる男たち」を読んだだけだった。それを読んでどう思ったのかというと、面白うてやがて悲しきお話、だった。
で、今回キローガの短篇集が出版されたので読んで見ることにした。
ページ数にして300ページほどでありながら収録作品は全30編。幾つかの短編が少し長い短編なので大部分の短編は5~6ページという短い話ばかりなのだが、密度が濃い。
名作といわれている「羽まくら」は確かに名作の貫禄十分で、次第に体力が衰え衰弱していく主人公の奥さんと主人公の間の物語もさることながら、最後に明らかにされる主人公の奥さんの衰弱と死の真相があまりにも強烈で、それまでの怪異が合理的な、といっても当時のレベルにおいての話だが、切れ味よく解体されるのに感動してしまう。
幻想的な物語がある種の合理性とリアルな手触りでもって語られるという点では南米のお家芸ともいえるマジックリアリズムそのものでもあるけれども、マジックリアリズムと言い切ってしまうほどの洗練さのようなものにも欠ける感じがするのは一話一話の物語が短いせいなのかもしれない。
逆に言えば、一つの話が短かく奇妙な話が多いため一気に読むことで、夢から覚めてもまた夢を見ているようなちょっと不思議な読書体験を味わうことができる。
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